韓国を見習おう――電子政府の先進事例

先見経済 「韓国を見習おう――電子政府の先進事例」

韓国を見習おう――電子政府の先進事例 先見経済


 誤解(無理解?)に基づく「抵抗勢力」の反対で住民基本台帳ネットワークの普及が遅れているがお隣の国、韓国では、猛烈な勢いで電子政府の取り組みが始まっている。住民にとっての便利さ、行政の効率向上、さらに行政の透明性が高まることによるメリットなど、日本の電子政府で目指す内容が次々に実現されている。もう、無益な論争は終わりにして、電子政府を目指して前進しよう。韓国の国民に笑われる。
 
 韓国世宗研究所・日本研究センターの高選圭博士の講演を聞いてびっくり仰天した。高博士は、世界で最も先進的なソウル市の電子行政システムの構築を担当した行政マンで、日本の行政システムを学びに日本に長い間、留学した経験もある。日韓の行政の特色の違いをベースに、韓国電子行政のポイントを実に明快に指摘してくれた。同時に、これは、日本の電子行政が目指して進むべき道しるべでもある。

 当事者であるだけにその語る韓国電子政府の実態は圧倒的な迫力である。講演は住民基本台帳ネットワークを検討する研究者たちの会合だったが、聞いていた日本の研究者たちは息を詰めて高氏の話に聞き入り、質問も次々と飛び出した。

 「日本の電子行政が、長野県をはじめとした自治体の無理解によって入り口に当たる住民基本台帳ネットワークに対する抵抗でたじろいでいるのに対して韓国は次々と考えうる限りの電子政府のアイデアを実現している」。これが率直な感想である。

 ブロードバンドの普及では韓国に大きな差をつけられた。この一、二年のe―Japan計画の進展に伴って、ブロードバンドの普及では日本も韓国を猛追している。しかし、ふと気がつくと電子政府の分野では再び韓国社会が先へ先へと前進している。その後姿がはっきりと見えるうちに、日本社会も大きく飛躍して韓国の仕組みに追いついてゆかなければならない。住民基本台帳ネットワークどころで立ち止まっていてはいけないのである。


 では、どのように韓国の電子政府が進展したのか。はっきりとした特色がある。まず、地方の行政の現場でいやがる行政職員の抵抗を押し切って、首長が強いリーダーシップで電子行政システムを構築し、この成功したシステムを中央政府が取り上げて、全国各地にモデルを移転した。地方→中央→地方と伝播したのである。

 最初にスタートしたのは首都ソウルである。リーダーシップを発揮したのは市長である。九〇年代終盤、「世界一の電子自治体を作る」という当時のソウル市長の決意が、韓国を世界一の電子政府先進国に生まれ返させた。この実績が認められて高市長はその後、新大統領に指名されて韓国首相に就任した。ソウル市で成功した電子自治体のシステムが中央に取り上げられ、全国各地の自治体に広がっていった背景には、こうした事情が控えている。韓国全土がいま電子行政の波に飲み込まれつつあるのも納得できる。


 変化の中身はどうか。

 まず、ソウル市の行政手続のうち、申請業務の多くがインターネットを通じた電子申請に移行してきた。電子証明の発行は個人・家庭にかかわるものはもちろん、不動産、自動車、税金、教育・就職、社会保障・健康、芸術・文化、環境関連など、あらゆる分野に及んでいる。

 このシステムを参考に中央政府も二〇〇二年から電子申請、電子証明書のシステムを開始した。
成果は大きかった。

 この一年間で、住民・戸籍・国税のシステムが共同利用に移行したという。この結果、申請時に必要だった各種の添付書類が大幅に簡素化され、このうち二十種類の書類が廃止になった。さらに、なんと納税者の二四%が電子申告、電子納付を利用しているという。日本では、ようやく今年から愛知県で電子納税の実験が始まる段階なので、ここでは五年くらい離されてしまったかもしれない。

 さらに日本では神奈川県横須賀市などで始まって、少しずつ各地に広がっている段階の入札業務では、すでに九一・四%が電子入札に代わったそうである。変化が早い。各種物品の購買・調達業務にいたっては九七%が電子処理に移ったというから、電子行政へと移行するスピードは急である。

 日本では行政機関がばらばらで複雑な二重手間、三重手間をさせられる分野でも国民の利便性を求めて統合が進んでいる。国民保険・産業災害保険・健康保険・雇用保険でシステムが連携し、一回の手続きですべての変更手続きが終わるそうだ。最も手続きの煩雑さが痛感される「転居」の際などで、住所変更を一箇所ですれば、後は自動的に変更される。「ワンストップショッピング」。これが住民基本台帳ネットワークの狙いでもあるのだが、韓国では住民基本台帳ネットワークに相当する住民番号を利用して、ワンストップで手続きが可能になる。

 同様に、国民基礎生活関連の申請は十五種類もあったものが、たった一種類に簡素化された。
行政内の業務も電子化が進み、この一年間で電子決裁は九一%に広がった。電子文書の流通比率も八二%に拡大し、紙の文書の姿は急速に姿を消している。

 駅や繁華街にあるKIOSK端末で、こうした電子申請などの手続きができる。住民番号と指紋照合で本人確認を行っている。日本とは大きな差がある。パソコンで自宅やオフィスからでも可能な手続きも多くなった。「ノンストップショッピング」だ。

 さらにソウル市で進行している「オープンシステム」。行政業務の進行状況を申請者が知ることができる。申請者が本人確認を済ませて申請者自身であることを認証した後は、案件がどの決裁者まで回っているか確認できる。担当者のメールアドレスや電話番号も開示されるので、異議申し立てがあれば直接担当者に連絡できる。

 かつて横行した汚職などの腐敗防止のために透明性を高めるのが目的だったが、どの担当者が業務を渋滞させるかが一目瞭然。これがけん制となって業務が効率化されるきっかけとなった。全体の業務コストが下がり、行政のスピードアップが実現した。業務のトレイサビリティ・システムである。
もちろん、行政担当者は上司からの勤務評定の客観的な基準が提供されてきたため、仕事への取り組み方が改善される効果も出た。

 電子行政は、住民側が得るメリットは極めて大きい。住民基本台帳ネットワークの入り口ぼやぼやしないで電子行政へのアクセルを踏まなければなるまい。

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