内田洋行『inkSpot』 2001年11月12日
全日空と日本エアシステムが経営を統合する。スイス航空の経営が行き詰まった。米国の航空会社も次々に経営危機に陥り、従業員の大量解雇に踏み切っている。航空機乗っ取りによる米国の同時多発テロの影響は、まず航空需要を一気に落ち込ませ、世界の航空業界を大規模な再編成に追い込んでいる。ニューヨーク-東京間で、往復2万円を切る安売り券も出現した、という報道もあるくらいに需要減は深刻だ。自由主義経済を混乱に追い込もうというテロの目的の一つは、残念ながら、達成されてしまったようである。
航空サービスだけでなく、リゾート地のホテルなども、地域によって大きな打撃を受けている。今なおテロの後遺症の残るニューヨークやワシントンはもちろん、ハワイや沖縄なども旅行客の激減にショックを受けている。ニューヨークのホテルなどは、金融センターで事務所を失った企業が臨時オフィスとしてホテルを借り上げる需要が起こって一息ついているようだが、それでも、ベッドメイクなどで生計を立てている労働者層にとっては大幅な収入減で、弱いところにさらに大きなしわが寄る。
ところが、経済は意外に力強いものである。
必ずしも、消費意欲が衰えているわけでもなく、経済活動そのものは堅調な業種もある。そこで航空機による出張を見合わせるとどうなるか。ホテルや航空会社が苦しんでいる分、テレビ会議システムの販売が爆発的に増加しているのだそうだ。実際に一箇所に集まる会議をネットワークに振り替えるわけで、ジェット燃料の高騰と通信コストの低下によって引き起こされる考えられていたテレビ会議の普及が、テロによって促されたわけである。
また、個人向けのパソコンも売れ行きが回復してきたそうである。テレビニュースでは、飛行機に乗ってリゾート地に行く楽しみを奪われたので、パソコンでゲームをやるようになった、という解説がされていたが、事実はそれだけでもなさそうだ。炭疽菌テロによって郵便への不安が広がったのも、輪をかけたようだ。つまり、郵便局側で防衛システムを配置するのが難しくて、業務が滞り、郵便がスムーズに機能しなくった。これで、いままで郵便で連絡していたものを電子メールに振り替えるケースが増えてきた。手紙を開封する恐怖を考えると、面倒だが、パソコンとやらをやらざるを得ない、という、最後のパソコン拒否組まで、ネットワーク利用へと押し出されている。
テロは、20世紀の象徴を破壊し、中世に戻すことが目的だったのだが、人々は逆に、21世紀的なネットワーク利用へと歩みを速め始めた。近代を拒否したテロが勝つのか、それとも、近代をさらに進める自由主義体制が勝つのか。アフガンの軍事行動だけが、テロとの戦いではない。
内田洋行 『inkSpot』 2001年11月12日