ワールドコムの教訓は何か

ワールドコムの教訓は何か

内田洋行『inkSpot』  2002年7月2日

 ワールドカップに世界中が浮かれていたのに、あまりサッカーに興味がないという米国だけは盛り上がらず、さえない顔をしていたが、その顔をさらに暗くさせるような事件が、米国主要企業を巡っていくつも勃発した。エネルギー大手、エンロンに次いで、著名企業の巨額の粉飾決算が次々と暴露され、投資家の企業への不信感が一段と深まったのである。これをきっかけに、米国経済は浮揚力を失ったかに見える。国際為替市場でドルは急速に値を下げ、世界経済は再びさまよい始めたといえる。

 中でも、米国第2位の通信事業者であるワールドコムの巨額の粉飾決算が明らかになって、一気に同社が存亡の危機に追い込まれたのは、情報産業に関係するものにとってショックは大きかった。改めて、20世紀最後の輝きを見せた米国の情報ネットワークの繁栄は何だったのか、考えさせられる。巨額の利益がみせかけだったとすれば、公表されてきた利益を反映して暴騰した株価、その時価総額を武器に株式交換という手品のような方法で次々と他の企業を買収してきたワールドコムとは、一体、何だったのか。

 しかし、そのことを深く追及することは日本産業界にとってそれほど意味はない。日本の通信業界は、この轍を踏まないように、独自の道を模索すればよい。日本が通信革命に出遅れたことは、今になってみれば幸運だったかもしれない。最終ランナーも、状況が激変して全体が回れ右をすれば、たちまちトップランナーに躍り出る。

 米国の今回の失敗から学ぶべき教訓はいろいろある。通信事業分野で言えば、料金引き下げ競争の失敗である。料金引き下げを視野におかず、将来の利益を当て込んで、巨額の投資を敢行し、その回収のめどが立たないうちに新たなライバルが料金を引き下げて次々に出現してきた。投資回収の期間を極端に短期に設定しなければ、どの事業もすぐに採算に合わなくなる。

 その原因はもちろん、技術革新のスピードが速すぎることである。情報機器は10年で100倍、通信ネットワークは10年で1000倍、あるいはそれ以上の速度で性能が上がっているので、後発ほど安くて良いサービスを提供できる可能性がある。後発優位の競争市場である。用心してだれも投資しなければ、技術革新に伴うサービスの向上のメリットが享受できないし、うっかり、投資をすれば赤字地獄に放り込まれる。現在の自由競争の枠組みが、もしかすると、こういう技術革新のスピードには合わないのかもしれない。

 では、どうすれば良いか。となると、申し訳ないが、名案はない。しかし、これまでのように、「株式市場は××と評価している」などという、市場を神格化したような議論を信じてはいけないということだけは、肝に銘じなければなるまい。そう言えば、最近のテレビ番組で、某大蔵官僚出身の大学教授が最近の株価低迷をもって「市場は小泉内閣を見捨てている」と小泉退陣を主張していたのは気になる。まだ株式市場至上主義者がいるんだな、、、、。


内田洋行 『inkSpot』 2002年7月2日

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