イラク戦争の教訓

イラク戦争の教訓

内田洋行 『inkSpot』 奇論・暴論 2003年3月24日

 米軍を中心にした「イラク侵攻」が、ついに、始まった。英国、オーストラリアの同盟と、旧東欧諸国や日本の支持を受けてのブッシュ米大統領の宣戦布告である。フランス、ロシア、中国、ドイツをはじめ、当然ながら、イスラム圏の多数の反対を押し切って、開戦した。物量にまさる米国の優位がテレビの画面からあふれ出ている。しかし、それが軍事的、政治的双方にとってブッシュの思惑通りに進んでいるか、といえば、とてもそんな評価はできない状況だ。ブッシュの資質の限界が丸見えになっている。

 国民に過酷な独裁体制を敷いて、その上に着々と兵力を養っているフセイン政権が世界平和にとっての不安要因になることは間違いない。米英同盟軍の攻撃を非難するためにテレビ画面に現れるイラク情報相の尊大な態度をみても、どうも世界の世論などはどうにでもなるさ、となめ切っていて、フセイン政権が存続すれば世界に危うい火種が残る気がする(そういえばアフガン攻撃のときにも、タリバン政権のパキスタン大使がタリバン擁護の尊大な会見をしていたが、あの人は今どうしているのだろうか)。

 もちろん、そうは言っても、現体制に慣れてしまっているイラク国民にとっては、事情はまったく別だ。爆撃を先陣とする『解放軍』を自称する軍隊が現れても、そう簡単に信じるわけには行かない。とりあえず、何とか生きていけるようになった現状を変えてもらいたくない。こうした国民は、事態が変わってそちらのほうが良ければそれを是認するので、どんなに抵抗が大きくても、結果オーライで判断する以外にないだろう。今度の侵攻は、世界に脅威と不安を与えるかもしれないフセイン政権が、イラク国民にとってはどうでも良いことが問題なので、とりあえず、自分に危害を与えなければそれで良い、と、フセイン政権を容認する国民は米・英同盟軍は無視するだろう。

 問題は、世界の安全を脅かす危険を秘めたフセインをどのように封じ込めるかである。その大役をだれが担うか。フセイン打倒に失敗した元大統領の父親をもつブッシュ2世大統領が、その任にふさわしいかどうかは、意見が分かれるところだろう。ブッシュ2世だからこそ、父親を引き継いでこの使命を達成できる、という意見もあるだろう。

 しかし、筆者は、その資質に疑いをもっている。ブッシュ現大統領は、イラク問題について、冷静に、客観的な判断をすることができる資格があるか。その心境を保つことができるかどうか。否、である。人間の行動には、先に結論が出ていて、そのロジックを後で整える、というパターンがある。ブッシュの今回のイラク攻撃は、このパターンではないか。ブッシュが、合理的に今回の攻撃を判断できたのか。大いに疑問が残る。が、超大国の支配者となった男の行動を、冷静なパウエル国務長官ですら、止められなかった。

 今回のブッシュのイラク攻撃は、軍事力をもった一極超大国が戦争を思い立ったときに、これを抑止できるのがいかに難しいかを思い知らせた。その恐怖を、北朝鮮の支配者がどのように理解したか、イラクの戦闘のテレビ画面を砂をかむ思いで見ながら、もっとも心に重く残る気がかりである。

内田洋行 『inkSpot』 奇論・暴論 2003年3月24日

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