「円安待望論」の不謹慎(?)

「円安待望論」の不謹慎(?)

内田洋行 『inkSpot』 奇論・暴論 2003年4月7日

 イラク戦争は、早くも米英合同軍がバクダッドを包囲する事態に突き進んだ。このまま米国の思惑通りにフセイン政権を崩壊させることになれば、米国一極主義の世界構造が一段と明確になるのだろうか。市街戦に突入すれば、イラクの反撃で状況は米英合同軍に厳しいものとなり、楽観論は吹き飛ぶ、という意見もあるが、悲惨な戦争を一刻も早く終結させるためには、フセイン政権の崩壊が早いことを願うのは筆者ばかりではないだろう。

 (戦争をきっかけに経済が好転することを期待することなどは、軍・民双方の犠牲者が広がる中でまことに不謹慎な議論なのだが、、、、)もし、そういう結果がドルを強くし、円を下げるならどうなるか。現在の円は日本の実力以上に高くなっている。米英合同軍が圧倒的に勝利すれば、この不均衡な円高―ドル安の事態を是正することになる。日本経済にとってはプラス材料である。現在の円の対ドル水準は不均衡に高すぎるとして、「円安誘導政策を打ち出すべきだ」という円安誘導論さえあるくらいだから、むしろ、イラク戦争は日本経済の救いの神になるかもしれないこんな議論も交わされている。

 しかし、こういう「火事場泥棒」的な期待はしない方が良い。

 仮に、イラク戦争に米国が圧勝しても、世界は安全で平和な状態に入るとは思えない。今回のイラク戦争が、国際世論を無視して米国が一国主義をむき出しにして、独善的に始めたからである。特に、イスラム社会が納得する形態での開戦ではなかった。世界はテロの危険にさらされ、テロによって頻繁に国際経済システムがトラブルに巻き込まれる事態を招くことになるだろう。

 フセイン政権がイラク国民を圧迫し、非民主的・非人道的な政体を築いていたことは確かに犯罪的なものとして裁かなければならない。しかし、だからと言って、今回のような戦争の始め方が長期的な視点でみて最適だったとは思えない。過去を批判しているのではなく、将来に大きな不安と危険を抱えることになるからだ。経済は算術である。しかも、やっかいなことに、消費者心理などという計算が難しいファクターを中に抱え込んだ算術である。仮に「ブッシュの勝利」に終わったとしても、テロの不安を極大化させる結果を残しながら終結するのでは、ドルは強くならないし、円も安くならない。

 日本経済は現在の景気停滞からの脱却の宿題に加えて、「テロの脅威」という新たな課題を突きつけられることになる。もっとも、フセインが窮地を脱して反撃に成功することにでもなれば、もっと大変な事態になるが。これは考えたくもない。

内田洋行 『inkSpot』 奇論・暴論 2003年4月7日

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