内田洋行 『inkSpot』 奇論・暴論 2003年5月6日
4月27日の統一地方選挙後半戦の市町村長・議員選は、総務省が推し進めてきた「平成の大合併」のシナリオに大きな影響を与えた。合併推進派が勝利を収めた自治体も数多くあったが、合併推進のリーダーが敗れ、合併構想に赤信号が点灯した自治体もある。星取表は推進派当選が23、慎重・反対派14だが、とりわけ推進派が敗れた自治体のショックは大きい。その代表がリーダーである平塚現職市長が反対派候補者に敗れて暗礁に乗り上げた「湘南市」構想である。
湘南市は、神奈川県藤沢市、平塚市、茅ヶ崎市、大磯町、二宮町、寒川町の3市、3町が合併して、およそ人口百万の政令都市を目指す、という構想。昨年初めに、当時、平塚市長だった吉野稜威雄氏が提唱して「湘南市研究会」が発足した。しかし、この構想に対しては茅ヶ崎市が反対して構想は難航し、統一地方選の結果待ち、ということになった。その結果が、平塚市住民は湘南市構想見直しを訴えた大蔵律子市長を誕生させ、茅ヶ崎市も慎重派の服部信明新市長を選んだ。藤沢市もこれまで平塚市のリーダーシップに付き合っていただけの「様子見」の状況だったので、「湘南市」は幻に終わりそうだ。
反対してきた茅ヶ崎市の最大の反対理由は「茅ヶ崎」の名前へのこだわりだった。茅ヶ崎海岸はここで大規模なイベントコンサートを開き、「ブランド」を確立している。合併に反対する市民は「湘南」より「茅ヶ崎」の名前に誇りを感じていた。また、合併によってどんな利点があるか、これを明確に示せなかったことも、茅ヶ崎市民を味方にできなかった理由のようだ。
実は、「平成の大合併」は、専門の学者に聞いても、なぜ、こうした合併が必要になるのか、理由はよく分からない。行政の効率を上げる、というが、そのメリットも確かに見られる半面、合併によって行政効率が下がる分野も多い。中央政府主導の強引な誘導策によって推進されるのだが、現場での賛成派の議論も、合併による優遇策を活用できる、ということが最も大きな賛成理由で、内発的な合併推進の理由はない。もっとも、内発的に合併のメリットがあるなら、中央政府の誘導策も不要である。
だれが、どのような理由で平成の大合併を促しているのか。メリットが感じられているところは自発的に行っているので問題はないとしても、必要性が感じられないところでも強引に推し進められるのはなぜか。その隠れたシナリオライターは、どうも、政治家のようだ。現在の小選挙区制度は、人口のバランスで、選挙区の組み合わせが流動的で、現職代議士にとってはどこが自分の選挙区になるのか、地盤が確定できない実にやっかいな制度のようだ。自治体が細かいと、有権者の数の調整で、思わぬ地域が選挙区に入り、逆に地盤を固めていた地域が隣の選挙区に逃げて行く恐れがある。単位となる自治体を合併させて、選挙区の組み合わせを安定したい、というのが、合併を推進させる本当の圧力なのではないか。
大きいことは良いことだ、とばかりに進められる平成の大合併。平成17年度までの合併には優遇措置を準備して誘導に躍起の中央政府の思惑に乗ると、落とし穴が待ち構えているかもしれない。平塚市民の選択は正解だ。
内田洋行 『inkSpot』 奇論・暴論 2003年5月6日