「住民マイ・ポータル」のすすめ

「住民マイ・ポータル」のすすめ

内田洋行 『inkSpot』 奇論・暴論 2003年12月22日


 柏崎市は、この1年、3つの件で話題になった。

 1つは原子力発電所の事故に伴う安全確認のための運転停止の要求である。西川(さいかわ)市長は東京電力に強硬に申し入れ、厳格な安全確認を保証させた。この間、他の原子力発電所の停止ともあいまって、夏の暑い盛りには、首都圏は電力不足の余波で大停電に陥る可能性すら議論された。

 2つ目が、北朝鮮から、拉致被害の蓮池夫妻の帰還である。夫妻は柏崎市出身であることから帰還後の落ち着き先は柏崎市の実家になった。そこへ西川市長が訪問して、柏崎市の職員に採用したいという申し入れを行った。これがテレビ放映された。このとき、蓮池夫妻は、戸惑った表情でこう言った。「いえ、私たちはパソコンができませんので市の職員にはなれません」。奇妙なことだ。北朝鮮帰りなのでパソコンができないのは仕方がないにしても、なぜ、それが「市の職員になれない」ことに結びつくのか? その疑問も解けないうちに、蓮池夫妻の家にはパソコンを指導する市の職員が訪ねて、報道陣の前でパソコンの指導をし、無事に市職員に採用された。

 3つ目が、今年秋の日経パソコン、日経新聞の発表だ。日経パソコンは9月に恒例の地方自治体の情報化先進度のランキングを発表したが、前年まで、全くランク外だった柏崎市が突然、第6位にランク入りした。さらに、10月に発表された日本経済新聞の自治体のホームページのランキングで、柏崎市のホームページが断然、総合点トップに躍り出た。

 これまで情報化では後進的だった柏崎市がなぜ、突然、大きく前進したのか。
 実は、上記の3つの件は、密接に関係がある。

 柏崎市は、原子力発電所にいつまでも市の財政を依存するわけには行かないので、これに代わる産業を模索したが、それにはITを基盤にするほかはない、と当たり前のように考えた。そこで、いま投入できる資金を使ってネットワークのインフラを作りたいが、インフラを作っても、何に利用するのか? だれが利用するのか? 悩ましい。そこに提案されたのが、全国に例のない「住民マイ・ポータル」の仕組みだ。2001年11月のことだ。

 「住民マイ・ポータル」は「住民ポータル」ではない。「住民ポータル」は多くの自治体が構築しているが、これは不親切な仕組みだ。トップページには、何をして欲しいか、して欲しい案件に沿って、誘導してくれる。以前は、部や課の名前が並んでいて、どこにアクセスすれば自分が知りたい情報を得ることができるか教えてくれるだけで、これを見ただけで絶望的になったものだが、これに比べれば前進といえる。しかし、まだ使いにくい。

 「住民マイ・ポータル」はこれとは違い、住民一人一人が、地域に暮らす上で、自分が知りたい情報は何か、予めチェックする。自分の地区のゴミの回収日、インフルエンザの予防注射の案内、子供の小学校の本日の給食メニューなど、いろいろある。それらを登録するとパソコンを立ち上げると、まず最初のページに、知りたかった情報の最新データが表示される、という仕掛けだ。「住民ポータル」は住民が市役所の玄関(ポータル)に行くようなもので、そこには市役所のにこやかな案内係りのような親切な誘導があって、「4階の○○窓口へ行ってくれ」とにこやかに教えてくれるが、とにかく、住民が市役所の建物まで行って、そこで、あれこれ探し出さなければならない。これが「住民ポータル」だ。

 これに対して、「住民マイ・ポータル」は市役所の情報が自分の家の玄関、どころか、自分のデスクのパソコンまであちらから届けてくれる。僕の玄関(ポータル)、私の玄関(ポータル)に個別の要望に応じて毎日、毎時、情報が更新されるたびに自分のパソコン画面に勝手に届く。「住民ポータル」は市役所の玄関であるのに対し、「住民マイ・ポータル」は家庭の玄関、個人の玄関なのである。

 こんな便利なものが簡単にできるのか? 間単にはできない。情報を入れる市職員がパソコンを皆、できなければならない。2001年秋から2002年夏まで、柏崎市の職員は、パソコンができなければ市の職員は失格になるという背水の陣でパソコンを習得した。これが「パソコンができなければ市職員は務まらない」という伝説を生んだ。蓮池さんの発言の背景には、柏崎市の半年以上に及ぶ情報化への努力があったのである。

 この結果、柏崎市の職員のスキルは急速に向上し、情報システムの質は上がった。さらにホームページは住民の痒いところに手が届く枠組みを作った。もちろん、まだ、柏崎市の住民マイ・ポータルには不十分なところが沢山ある。しかし、他の自治体はそのレベルにすら行っていない。全国各地に「先進自治体」と呼ばれるところはたくさんある。ただ、柏崎市は、その先進自治体を、たった半年の集中的な努力であっさり追い抜いてしまった。このことは、大いなる教訓である。

内田洋行 『inkSpot』 奇論・暴論 2003年12月22日

日系BPガバメントテクノロジー電子自治体ポータル
結果発表「自治体サイト・ユーザビリティ調査2003」

柏崎市ホームページ

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