内田洋行 『inkSpot』 奇論・暴論 2004年1月5日
年末、米国産牛肉で、BSEと確認された牛の肉が流通段階まで流出してしまったことが明らかになった。この事件の発覚とともに日本のスーパーやレストランチェーンがとった措置がはっきり二つに分かれた。今回は正論を述べたい。
BSEを発病した牛の肉が市場に出回っていることが報道されたのは12月29日の朝だったが、早くも、その日の午後までにイオングループは米国産牛肉の販売中止を発表した。流通ではこのほか、カルフール・ジャパンが同様に米国産牛肉の販売を中止した。レストランチェーンのサッポロライオンも米国産牛肉の使用中止を発表している。これに対してイトーヨーカドーやダイエー、西友などは「問題となった牛肉とは産地や肉の種類が違う」として販売中止には至っていない。しかし、日本の農林水産省が米国産牛肉の輸入を止めたので、早晩、米国牛の販売は難しくなりそうだ。この点は牛丼チェーンの吉野家に深刻に現れており、原料牛肉の主力調達先を米国にしている吉野家では、在庫に余裕があるとはいえ、輸入禁止が長期化すれば2月半ばには在庫が尽きて、牛丼の販売中止になる可能性を示唆している。
上記の各社の対応の中で際立っているのは、やはり、イオングループの対応だろう。イオングループは2001年ころから、一貫して、「消費者の安全、安心の砦になる」という方針が打ち出されている。商品の材料表示で不正確なところがあったメーカーの製品取り扱いは中止するだけでなく、損害賠償請求まで行っている。さらに食品を含めて全工業製品に対して工場内での生産プロセスの基準を設け、その手順に従って生産、在庫、出荷を行わなければ取引中止にすると宣言している。トレイサビリティ・システム(生産履歴情報開示システム)を徹底的に追求し、消費者の安全、安心を確保するための代理機能を果たす活動を始めている。もちろん、それを可能にするのが、ブロードバンドやバーコード(いずれは無線ICタグ)による管理、つまりITの力である。
過剰な反応は慎まなければならないが、それにしても、米国産の牛肉については悪い噂もなかなか消えない。特に、米国産の一部では、牛にホルモンを投与するので人間が間接的にそのホルモンを摂取する危険があると指摘されている。ハンバーガーを常食している米国民に極端な肥満が発生することがあるのも、この間接的ホルモン摂取の影響があるのではないか、と疑う向きもある。もちろん、多くの畜肉家や食肉加工メーカーは、こうした濫用は行っていないだろうが、一部にもこうした生産者がいれば、全体が風評被害を受けてしまう。
日本は2001年のBSE騒動をきっかけにトレイサビリティ・システムの構築を始め、日本産牛肉は誕生から成牛に至るまでの肥育管理情報が蓄積され始めている。いざ、BSEが発覚しても、感染の可能性のある牛は狭い範囲で特定されるので、最小限の被害で済む。肥育途中で投与した餌やホルモン、抗生物質の種類が公開されるようになれば、ホルモンの間接摂取の可能性も回避することができるだろう。そこまでトレイサビリティ・システムが完成しなければ消費者の不安は消えない。それは、ホルモンや抗生物質などの力を借りてきた生産者にとっては大きな痛手になるかもしれない。しかし、いずれは、そこに移行せざるを得ない。
イトーヨーカドーやダイエーなどは、今回問題となった牛肉とは産地の違う肉だと断言しているので、生産管理には自信をもっているのだろう。あるいは直接に生産管理に携わっているのかもしれない。しかし、今回、子牛の調達経路の特定に迷走していた米国業界の混乱ぶりを見ると、米国全体の管理の質に疑問を感じざるを得ない。やはり、ここは米国産牛肉にもトレイサビリティ・システムを要求したい。そのためには、イオングループのような毅然とした態度をとらないと、消費者の支持は得られないのではないか。
内田洋行 『inkSpot』 奇論・暴論 2004年1月5日