先週、世間を騒がした2つの事件に筆者には考えさせられるところがあった。いずれも筆者が属していたマスメディアの存在意義を問われる大問題を含んでいる。 このような状態で、無秩序と言われつつも、影響力を拡大しているインターネットに、果たして旧来からのテレビ、新聞、雑誌などのマスコミがその正当性を主張し切れるのだろうか。不安を抱かざるを得なかった。
一つは言うまでもなくボクシング。何とかファミリーの愚行である。視聴率稼ぎのためになりふり構わない民放テレビ局が、長期間、行き過ぎた企画を進めてきたために、とうとうプロボクシングを「スポーツ」の領域から、金儲けの目的が見え透いた醜いショーに転落させてしまった。それにしてもテレビメディアも堕落したものだ。良識的な視聴者には、この下品な企画を長年推進してきたメディアやスポンサー企業に対してボイコットを含む抗議の意思を表明するようにお勧めしたいくらいだ。このままでは、インターネットの勃興に対して、「番組の品位を保つ責任がある放送メディアは無秩序なインターネットとは違う」などという年来の主張は空念仏に終わることになるだろう。
もう一つは伊勢の老舗人気和菓子企業の「賞味期限」問題だ。「伝統ある老舗企業よ、お前もか」などという論調でニュースを作っているところがほとんどだったが、「おい、おい、本当か?」と、紋切り型のニュースの作り方に重大な疑問を感じざるを得なかった。
老舗の提供する和菓子は、いったん製造した後、零下35度程度に冷凍保存して、必要に応じて高温で調製した後、普通の製法の商品と同様に出荷した。その際に、当初の製造日ではなく、解凍・調製した日を「謹製」の日付とし、これに基づいて賞味期限を表示した、というのが「製造日および賞味期限の改ざん」と指弾されている中身のようである。
事実関係の詳細は分からないが、もし、報道されている通りであるとすれば、冷凍保存したことやそれを、日時を経て解凍し、調理したことを説明することを怠った老舗企業の責任は免れないものの、肉の種類や部位の正しい表示を怠り、偽の表示をしてきた食肉加工業者の「改ざん」などと同列の扱いをするのは報道として節度を欠いている。「製造したその日に販売する」という同社の表示方法には「一時冷凍保存をしたものもある」という説明の不足があったとは批判できるが、記録の「改ざん」というものとは違うだろう。
それよりも、冷凍保存によって安全に管理された食品については、表示の方法に別の種類を設けられないものか。食品保存技術も日進月歩である。あまり頻繁に基準を変えられては消費者には分かりにくいが、それにしても、技術革新に従って規格、基準も進歩させなければならないのも当然だ。古い技術の時代に作った基準は新しい技術の時代に合わなくなる。それでも「一度できた基準は愚直に守らなければならない」という固定観念にとらわれていては技術の進歩は止まる。老舗企業は、そういう主張をし、冷凍技術によって一部の製品は安全に保管され、品質の上では影響がないということを正直に説明する必要がある
マスコミ報道も行政当局の硬直的な「摘発発表」に安易に乗ることはせず、「冷凍技術応用」で品質上の問題のあるなしを議論し、問題がないならば、表示基準が新しい技術の登場に適合しない事態をどう打開するのか、に論点を移すべきだろう。行政当局は、「決まったものは守らせる」のが仕事だが、「決まったことが正しいのか」を検証するのもマスコミの仕事の一つである。
なお、筆者は健康上の理由から、甘い菓子を控えているので、評判は良く知っているものの、この製品を食べたことはなく、暫時出荷停止の措置によって、直接の影響は受けていない。技術革新まで断罪しそうな上滑りなマスコミ論調に危機感を抱いている、というのが本稿の趣旨である。