いかにして「心の病」に早期対応するか

いかにして「心の病」に早期対応するか

 中央官庁の職員の「心の病」が深刻のようだ。2006年度で心の病で病気休暇をとった職員の数は在職者の1.3%に及ぶ高率だったそうだ。年齢別では30歳代が半数を占め、理由はよく分からないが社会保険庁の職員が6.4%と最も高かったという。5年に一度の調査結果では、国家公務員の長期病欠の原因の中で「精神・行動の障害」は、91年に4位、96年に2位、01年に1位に浮上し、06年も1位で、定着した。
 中央官庁の職務は責任が重いから、というだけが理由ではあるまい。われわれの情報産業でも「心の病」の症例を身近によくみかける。分担し、孤立して仕事をこなしている業務形態が心を蝕むのかもしれない。能力を上回る仕事の量に圧迫されるのかもしれない。原因を見極め、取り除くことも重要だが、現場ではなかなか難しい。分担し、業務を任せている量も、チームに余裕があるわけではなく、ぎりぎりいっぱい、チームの他のメンバーが少し肩代わりしてあげる、というような対応策は利かないのである。
 「メンタルヘルス」というのは、かなり、幅の広い対処策のようである。
 最も深刻な事態では精神医学の世界になるが、もっと手前にいくつかの段階がある。最も浅いレベルでは、軽いテストで心理の圧迫状況を診断して、ちょっとした精神的落ち込みならば「毎朝30分、散歩などの軽い運動をしたらどうか」というようなアドバイスで回復する。筆者も、20数年前、「メンタルヘルス」の名称も珍しかったころに新聞記事の体験取材で受講したが、少し照明を落とした部屋で50人ほどが集まり、指導者の指示で腹式呼吸を繰り返して軽い運動を行ったところ、確かに何か軽くなった。
 元々、物事を深く悩む体質でない筆者は以降、その必要性がないまま今日に至っているが、従業員の精神状況の問題に直面する経営者の方から「効果がありそうか?」と問われれば、「試す価値はあるよ」と答えることにしている。
 業務を遂行する場所を、生活も楽しめる自然に恵まれたところに移し、「ワーク・ライフ・バランス」を満たす新しい業務形態を模索することも試みてみる対応策の一つだと思う。沖縄や北海道、東北などの自然豊かな地域がその受け皿になってくれることが条件だが、高速ネットワークをふんだんに使えるようになったこの時代、企業の職場の一部を地方に移して実験をしてみることも必要ではないか。それが高度情報社会、最近の言葉で「ユビキタス社会」の未来図として、情報産業自身がかねて提唱してきた仕事の仕方でもある。
 現実に「心の病」のことを痛切に考えなければならない情報産業はとりわけ、高速通信網によって、こうした就業形態を実験する必要があるように思う。最近、その経営手法が注目されている「BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)」ならば、どの企業でも実験に取り組めるだろうが、まず、最も業務の性質がネットワークに依存できる情報産業から、新たな「心の病」への対応策に挑戦してもらいたいものである。

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