キヤノン(グループ)が製造現場での派遣労働者の利用を今年内に全面的に廃止し、1万2000人のうち半分を期間契約かつ直接契約の社員、残りの半分を業務請負による外部委託にする方針を決めたという。派遣労働が製造現場の単純作業にまで波及した結果、この制度が専ら低賃金で労働者を活用する手段に利用され、労働者にとって低い収入で不安定な身分に置かれる劣悪な制度と化したからだ。
新聞記者時代に労働者派遣法の経緯を取材した筆者にすれば、労働者派遣法は制度発足当時から見ると思いがけない方向へ発展してしまった、という気がしてならない。
制度設立当初には労働者にとっても、2つのビジョンが描かれていたように思う。
まず専門的技術者の就業機会の効率化である。特に情報技術者のように、システム開発の過程で、特定の技術が一定の期間だけ必要とされるような場合には、一つの企業ではその技術を生かす機会が十分に与えられないので非効率になる。プロジェクトがある企業の開発チームに派遣されることで仕事の機会が増える仕組みだ。また、そこで新しい技術に触れて技能を身につける機会が提供される。
もう一つは働く者の働き方の多様化、幅広い選択肢の提供だった。たとえば、年間3か月は海外旅行をしたい、年間3か月は集中して自分の将来の希望である芸術活動に専念したい、などの個性の強い生き方を希望すれば、組織の中でがっちりと仕事の仕方が決まった従来の正規社員では難しい。派遣労働という選択肢はそれを可能にしてくれる。組織の中で生きるのとは違う人生を実現する支援制度としての色彩があった。
それが結果として、身分の不安定な大量の低賃金労働者を生み出す事態に陥ってしまった。結婚できない若者、子供を作ることができない夫婦が増加し、少子化の遠因ともなった。こうなってしまった原因の一つに、国際競争力維持の問題があった。日本企業が中国や途上国の労働コストの低い地域の企業と競争するには海外に出るか、国内の労働コストを下げるか、どちらかである。国内の労働コストを下げる手段の一つとして派遣労働が使われたのである。
依然として「派遣」が意味のある情報サービス産業などでも、次第に賃金が安く、労働条件としても不利となって、結果として優秀な若者から敬遠される原因を作ってしまった。この機会に、派遣労働のあり方を、原点に返って再検討し、ビジネスの仕組みを再構築する必要がある。