普通の「巨人ファン」である筆者にとって、今年のプロ野球は4月の中旬に、一度、終了していた。再スイッチが入ったのもごく最近の9月中旬。連勝によって阪神との差を一気に縮めてきたころだ。関西地区の阪神ファンの皆さんにはまことにお慰めの言葉もないが、それまでは筆者でさえも、阪神がぶっちぎりの優勝を遂げると信じ、秋のクライマックス・シリーズに出場できる3位の順位だけはせめて確保して欲しいと、巨人については、あきらめの心境だったのである。
夏にしては寒い気候が続き、秋風が身にしみ始めたころ、遥か前方で背中も見えなくなっていた首位阪神が近づいてきた。月下旬にはとうとう同率首位に並んだが、筆者は、この期に及んでも、まだ半信半疑だった。それが信じられないまま、10月10日夜の原監督の胴上げである。一時は原監督の勝負能力を見限ってしまったことを深く反省して、脱帽するほかない。「豊富な資金力で選手をかき集めた金権優勝」など、いろいろご批判もあろうが、シーズン当初は他に引き離されて断然、最下位だったのだから、あきらめなかった精神力にひたすら感服する。あきらめない、ということが、ここまで反撃の力として働き、目標達成の原動力になるものなのか、感服する。底力の源泉はあきらめない精神力だ。
興行的には前半から中盤にかけての巨人の不振はテレビの視聴率を低迷させてマスメディアには打撃だった。また、巨人ファンの多い経営者層の意気を阻喪させて、景気後退の基調を形成する悪い影響を与えてきたのではないか。その意味でも、史上三番目という歴史的な途中の大ゲーム差を逆転した快挙は、この危機的状況に立つ経済界にも大いに勇気を与えてくれるのではないか。
米国のサブプライム破綻をきっかけにした世界規模の金融恐慌のこの緊迫の時期に、のんびりと野球の話題ではなかろうと思うが、逆にこういうときこそ、じっくりと落ち着いて足元を見つめなければなるまい。
あえて強弁すれば、米国のサブプライム問題は、欲の突っ張った米国ビジネス界の失敗に過ぎない。ローンとして低所得者層の「未来の稼ぎ」を先食いして米国住宅関連業界が大きな利益を稼いできた好景気が、いざその未来に来て見ると低所得者層は相変わらず稼ぎが少なくて、住宅購入は所得不相応な買い物だった、という実態が明白になったということだ。ローンを証券化してファンドという「金融商品」を架空に作ったので、その損失が2倍に拡大したので打撃は大きかったが、未来の先食い時期には利益が2倍に膨らんでいたに違いないので、山が高ければ、先食いしてしまって谷間になった状況では谷もまた2倍に深いということだ。
明るい未来を前提に作ったローンが崩壊したが、あきらめてはいけない。原監督が教えてくれた。人間は、ちょっとやそっとのことであきらめずに、未来を確信することで、困難や危機を打開することができるではないか。「あきらめないこと」が今は最も重要なキーワードである。阪神ファンの皆さんには申し訳ないが、あえて巨人軍のセ・リーグ優勝を取り上げた次第だ。阪神の岡田監督や選手の皆さんには、心機一転、クライマックス・シリーズ、日本チャンピオンとあきらめずに頑張って欲しい。