同じようにまじめに働いているのに、一方で大金持ちが続々誕生し、他方で多数の人びとがそこから取り残される。何か変だった。モノつくりや実経済とは別のところで「金融商品」とやらが大量に出現して「大賭博場」が開帳された。この「大賭博場」は次々と新規入場者が参加してくるので資金が増加して「場」は右肩上がりに拡張したので、多数の「勝ち組」の数の割には「負け組」は少なくて済んだ。それは、未来のお金を前倒しに現在に取り込んだために、一見、現在の資金が膨らんで見えただけで、未来からの借金に過ぎなかったわけだ。その借金の返済期限が来たところで、もう未来からはお金を借りる限界を超えたので、資金調達ができずに破綻した。
この背景には、ITをフル活用した「金融工学」という理論がある。この理論は経済発展の特定時期には刺激策として価値があるらしいが、不適切な時期には使い道によって、富を不平等に再配分する暴力装置にもなる。現実に、この10年間に日本に現出した貧富の格差、米国やロシアの中の貧富の格差、資源国とそうでない国との諸国間の貧富の格差などを露わにして、その拡大に猛威を振るった。ITを誤用して引き起こした格差だとすれば、ITを広めてきた身としてはお詫びのしようもない。その金融工学が引っ張ってきた「賭博場経済」が破綻した。
一時的にではあれ、経済が混乱してモノの流通が停滞するのは迷惑だが、これまで不平等な富の再配分に与らなかった身としては、ようやく不平等が是正される時期が来た、振り子が正しいほうへ揺れ戻る時期に来たようにも思える。富の再配分時に利益に与った人ほど、今回の打撃は大きいのではないか、だから大慌てして走り回っているのではないか、と、理論に疎い身としては、傍観するにしくはない、と腕組みしてニュースを追ってきた。
その中で、ただ一つ、まったく理解できないニュースがある。「今回の危機は米国が震源地だから、米国経済を救うために米国の国債を日本のお金で購入すべきだ」という、思わずのけぞってしまう主張が声高に語られていることだ。昔、同じような理由で米国の国債を日本が大量に買って、おそらくそのままになっているのではないか。テレビの議論で「250兆円分ある」と言っていたから、もしかすると、買ったきり、売りもせずにそのまま保有しているのかもしれない。だとすると、このドル安では、為替で、いくら差損が出ているのだろうか。その上にまた上乗せして米国債を購入し、膨大な差損をこうむろうというのだろうか。少なくとも米国が国債を発行し続ければ米国政府の借金は膨張してドル安に弾みがつくだろうから、買うそばから為替差損で資産は目減りしてゆく。こんな馬鹿な買い物をすることは金融工学でも教えないだろう。
そんなお金が国内にあるなら、国内の資金流通が滞らないように使って欲しい。いま、日本国内も危機なのである。巨額の借金漬けで体力が弱った米国の経済にとって、日本から輸血は大して役立たないだろうが、輸血したら、日本経済が失血で危篤状態に陥るかもしれない。まず、日本経済の傷んだ場所に血液を回すほうが先決ではないだろうか。ITを利用した「金融工学」の悪魔にだまされないように、「米国債」取引という賭博に手を出さず、実経済である日本経済にお金が回るように、切に願いたい。