情報産業の「請負」を幅広く認めるべし

情報産業の「請負」を幅広く認めるべし

情報産業の現場で、大きな逆転が起きている。「偽装請負」など社会問題化した事件をきっかけに大手企業はコンプライアンス順守の観点で、「請負」から「派遣」へと契約を切り換えようとしているが、実は、この「派遣」への一律の「追い込み」が場合によっては「憲法違反」の疑いがあることが指摘された。企業のコンプライアンスの点では、一律の派遣への切り換えの方が危険な行動であることが明らかになりつつある。コンプライアンス順守のつもりが逆に憲法違反の危険を冒しかねない。情報産業は原点に戻って「請負」を幅広く認めるべきである。

活力ある日本の新しい社会づくりに自立した「個人事業主」の活躍が期待されているのだが、どうも昨今、誤解を受けて敬遠され気味である。最も顕著なのが、情報技術者の「個人事業主」の扱いである。あちらこちらのSI企業などで、法務部門が「個人事業主」との請負契約を禁止して「派遣」に切り換えるように現場に指示を出している事実がある。実は、労働問題の権威である安西愈弁護士によると、こうした「請負」は「憲法に保障された営業の自由であり、職業選択の自由で保障されるべき」(安西愈監修、首都圏コンピュータ技術者株式会社編「自営業者の適正な請負」)ものであって、場合によっては、一律に個人事業主を排除するのは憲法違反の疑いがある。

大手SI企業などの「個人事業主による請負の回避」には原因があるようだ。昨年、東京労働局がホームページに掲示した「請負の適正化のための自主点検表」で、この中で情報産業での請負は「偽装請負」と紛らわしいとして、派遣に切り換えるように促す趣旨が提示されていた。これを基に、大手企業の法務部門はコンプライアンスの観点から、極力、請負を避けるように「安全策」に走った、という経緯のようである。

「請負」と「派遣」は紛らわしいというのが、東京労働局の見解だった。特に情報システム関連の業務では、発注主の事業所内でチームを作って作業を行うので、形態としては「派遣」と紛らわしい。東京労働局が、これを見誤って判断してしまったのも無理はない。しかし、情報システム開発では、発注内容が未完成で、かつ、しばしば変更を伴うために、請け負った業務を適切に推進するためには、事業所内で適宜、相談を受け、協議する必要がある。「請負」は発注者と同等の立場でこの協議、相談に参加する。発注主の指示に従順に従う「派遣」とは明確に区別ができるのである。

上記「自営業者の適正な請負」では個人事業主のケースを対象にしているが、ことは個人事業主の情報技術者の場合だけではなく、請負契約によって業務を行う中堅・中小企業の技術者にも通じる区別である。

「派遣」は、その範囲を拡大して適用したため、社会の貧富の格差を拡大する悪い側面を生み出した。いま、その制度の根本的な見直しの最中である。情報産業では、一部の悪質業者が起こした「偽装請負」を理由に、正当な請負業務までが回避されるように誘導されて、情報産業そのものの構造がゆがめられてしまった。厚生労働省では、情報産業の現場の実態まで理解できなかったので、業務形態だけから誤解が生じたのも無理はない。しかし、どうやら、健全な方向に是正するチャンスが到来した。監督官庁の指示だからと言って、疑問を持たずに従っていると、とんでもない所に誘導されかねない。新しいコンプライアンスの観点で、もう一度、請負問題を見直すべきである。

参考:東京労働局 労働者派遣事業関係
http://www.roudoukyoku.go.jp/seido/haken/index.html

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