ITを地球環境対応に利用する。沖縄那覇市住民を対象に2月初旬から「環境家計簿(えこ花)プロジェクト」(買い物情報から個々の家庭の炭酸ガス排出負荷状況を把握する仕組みを構築するためのSaaS活用のプロジェクト)の実験が始まった。琉球ジャスコの那覇市内の店舗や沖縄の小売店に参加を募って進行中だが、その過程で、小売店の中に、「顧客情報」についてとんでもない勘違いが広がっていることを知って、「個人情報『過』保護法」の弊害が高度な情報社会進展の壁になっていることを改めて実感した。このままでは、低炭素社会を目指して、ITを活用した環境対応の仕組みを構築する活動にも大きな障害物である。
えこ花プロジェクトは、消費者が小売店で買い物をして、そのレシート番号(携帯ではQRコード読み取り)を自宅のパソコンや携帯で入力すると、小売店の販売データベースに記録されている販売情報(商品名、数量、価格)、つまりレシートに印字されているデータが呼び出される、という仕組みを元に推進される。このサービスはSaaSで提供されて、買い物情報を管理する家計簿ソフトはサーバー上にあって、このプロジェクトに参加する消費者は予め、インターネットを通じてSaaSに登録して「MY 家計簿」を作成しておく。小売店のデータベースから呼び出された消費者のレシートデータ(買い物記録)はこの家計簿に転送されて自動記録される。
レシート番号の入力や携帯によるQRコードの読み込みだけで簡単に家計簿に記録できる。ネット家計簿である。この実験は単に家計簿作成によって家庭の支出状況を把握するだけが目的ではない。SaaSのサーバーには、国立環境研究所が作成した食品項目ごとの生産工程の炭酸ガス発生量の一覧表が呼び出され、レシート情報と結合される。この結果、購入した商品の項目、数量などを計算して炭酸ガス負荷が分かり、家庭が地球環境に与える炭酸ガス量の概数を把握する参考データを提供できる。
もちろん、最終的には他の店の買い物や食品以外の購入商品の炭酸ガス排出量、使用電力量、ガソリン使用量からの炭酸ガス排出量の換算など総合的に管理することが、家計の炭酸ガス負荷の計算上必要だが、その重要な「部品」の一つになる購入食料品についてのデータを得る仕組みの手掛かりができるのである。
さて、問題は、この協力を小売店に求めたところ、「顧客の個人情報を安易に提供することはできない」という答えが返ってきたことである。この仕組みは、商品を購入した顧客が、受け取ったレシートで本人自身が「自分の購買データ」を「自分の電子家計簿」に移動させるのである。本人自身がレシートを見ながら、たくさんの商品名や数量、価格のデータをキーボードや携帯の数字ボタンから入力する手間を省くものである。消費者の利便性を向上するための仕組みで、かつ、単に金銭的な家計簿にとどまらず、これまではつかみどころのなかった「家庭生活が与えている地球への炭酸ガス負荷」のデータが、小売店が保有する販売データベースを活用することによって、極めて効率的に把握することができるようになる。これは小売店のための仕組みではなく、消費者、顧客のための仕組みなのである。
「個人情報が漏れる危険」もここに存在しない。他人はこのデータにアクセスしても何の意味もないからだ。仮に誰かがレシートを拾って、この購入履歴を呼び出すことができたとしても、誰の情報かは分からないし、出てきた情報はレシートに印字されているものと同じなので、何の新しい情報漏れも起きてはいない。この拾い主は事前にネットに自分の「MY家計簿」を作成しておかなければSaaSにアクセスできないし、その家計簿に拾ったレシートの情報が付け加えられだけである。
ここで繰り返すが、小売店の販売情報データベースに入っている情報は、いったい誰のものか、ということである。小売店の経営情報、売れ筋や販売傾向の分析、効率的商品仕入れの基礎情報など、小売店の合理化のために利用できるので当該小売店のもののように思えるが、実は、そうではない。この情報は一定の了解のもとに顧客から預かったものである。顧客は小売店に「預けた」のである。個々の情報は誰のものか、という問いの答えは明確である。それは、個々の顧客のものなのである。顧客が自分の購買データを効率よく家計簿に入力したいと思った時、なんと、その電子データが小売店にあるではないか。預けておいたそのデータを顧客が利用するだけのことである。
顧客から預かったデータを自社の経営のために利用し、安全に保管するだけでは小売店の機能は終わらない。小売店は顧客の購買行動の記録を電子データにして、顧客自身に提供する。「家計簿データ提供サービス」が新しいミッションである。さらに商品ごとに地球への炭酸ガス負荷とリンクさせて、「環境家計簿データの提供サービス」へと発展させるのが、流通業の社会的使命になるだろう。
情報システムは企業の地球環境対応に力を発揮するだけではない。顧客情報を顧客自身に活用してもらい、家庭の環境対応への活動を手助けする有力な道具になる。