途中経過で結果論的に言うのは極めて俗論で恐縮だが、率直な感想を言うと、今回の「新型インフルエンザ」の必死の上陸阻止作戦は、いささか「やり過ぎ」ではないかと感じる。感染した可能性があるとして1週間や10日間もホテルに缶詰めにされる、というのは、よほどの危険と引き換えの「プライバシー」の侵害である。もし万一、本当に感染していたとしたら、かつ、新型インフルエンザがペストやコレラのように猛烈な感染力と致死的な毒性を持っていたら、このような厳重な予防策は多くの国の政府、国民から支持されるだろう。
しかし、この機に乗じて政敵を抹殺しようというような不埒な行動を起こす者がいたとしてもどうやって阻止するのだろうか。警察国家的な嫌な雰囲気を感じるのは、全共闘世代のもつ過剰なアレルギーに過ぎないのだろうか。
それはともかく、もし、自分がたまたま同じ飛行機に乗りあわせた人が咳き込んで、新型インフルエンザの疑いがあるという理由でホテルに缶詰めになったら、どうだろうか、と考えてみた。仕事の上で相当の支障が出る。自分の会社のだれかが10日間、突然、ホテルに缶詰めになったらどうか、とも思いを巡らせてみた。もちろん、空想的なことではない。顧問をしているある企業の幹部社員が連休中にアメリカの親族の元に行き、帰国の飛行機で乗り合わせた乗客が入国の際に要注意の症状があった、と報告があった。念のため、1週間の出社禁止にしたが、これが広がったら、企業活動はお手上げだと感じたのである。
ここでリスク管理について不安を覚えた。パンデミックの際にどのような勤務形態をとるか。実際に今回のケースではそこまで行かないかもしれないが、大地震も準備しなければいけないにしても、パンデミックは、より現実に襲来してきそうな危機である。
実は、ITの世界ではとっくの昔に解答を提供していた。それぞれが自宅やホテルに閉じこもったまま、シンクライアントやテレビ会議システムによって、移動のリスクを伴わずに仕事をする。パンデミックの際の仕事の仕組みではなく、ユビキタス時代にどこでもいつでも仕事ができる仕組みである。普段からこの仕組みで仕事をする仕組みができていれば、パンデミックでもびくともしないシステムだった。
ところが、セキュリティを過剰に心配するセクションからの要求で、仕事はセキュリティが確保された事業所に閉じ込めて行うのが安全だというので、持ち帰りの業務、在宅勤務、遠隔勤務の道が閉ざされた。原始的過ぎる方法だが、その方がリスクは少ないというのである。この仕組みではコストが上昇する。それでも「安全確保」には多少のコストはやむをえない、という過剰な自信で、「事業所外の作業禁止」という、ユビキタス時代に全く逆行する方法が横行してしまった。
しかし、パンデミックは、端無くも、もっと大きな企業リスクが迫っていることを警告している。事業所に集まれない事態が生じれば、業務が全面的にストップするという壊滅的な事態である。そんな事態は、在宅勤務、テレビ会議システム、ユビキタス勤務システムによって、難なく克服することができるのである。え? セキュリティが問題ですって? そんなことはいくらでも方法がある。セキュリティを万全にする在宅勤務、ユビキタス勤務の仕組みは、都心のオフィス家賃の軽減、通勤費の節減、社員の通勤や勤務時間拘束によるストレスからの解放など、リスク管理でのメリットに加えて多数の良さがある。過剰で無用で、かつ、機動的な経営を妨害する、誤った「過剰セキュリティ」の考えを跳ね返して、本来のユビキタス勤務システムを取り戻す契機ではないか。
それを考えると、過剰に新型インフルエンザの予防措置をとる今回の対策は、時代を突き動かす正しい措置なのかもしれないが。