台湾のバイタリティと中国の賃金上昇――アジア分業の見直し

台湾のバイタリティと中国の賃金上昇――アジア分業の見直し

 先週、台湾のIT業界の代表的な組織、CISA(中華民国ソフトウェア産業協会)と日本のソフトウェア企業組織である全国ソフトウェア協同組合連合会(JASPA)、KT-NET(優良なアプリケーションを発信するために組織したITベンチャー100社の会員組織)の間でビジネス交流会が開催され、JASPA会長である筆者も台北を訪問して参加し、強い印象を受けたので、この場で報告させていただきたい。

 何よりも驚いたのは、米国発のソフト開発技能レベルの組織的水準を示すCMMI(ケイパビリティ・マチュアリティ・モデル・インテグレーション)の認定を取得するのに熱心で、最高水準であるCMMIの「レベル5」の企業が続々生まれていることだ。国際的なソフトウェア受注合戦には不可欠な認定だが、日本ではほとんど取得されていない。それだけ日本のソフト業界の水準が低いのか、あるいは国際商談に参加しないので、興味がないのか。これに対して台湾では経済部工業局が打ち出したソフト産業振興の戦略としてソフト開発資源の「輸出」を促すためにCMMIの取得を推し進めているのである。その熱意、意欲、バイタリティは日本のソフト産業では見られない強烈なものである。

 さらに、台湾のソフトウェア産業大手は、例外なく北京、上海、武漢、大連など中国各地に子会社を展開していて、中には従業員数では圧倒的に中国側の方が多いという企業もあった。経済的には台湾と中国はすでに一体である。しかも、驚いたことに、能力の割には低賃金の中国の技術者獲得を目的に展開した中国子会社だが、すでにその構図は見直しを迫られていることだ。中国の技術者の賃金は上昇していて、北京ではすでに台北並み、上海では台北を上回る勢いである。大連では依然として台北の40%の水準で「コストの安い中国活用」のモデルが成り立っているそうだが、急速に日中台のソフト協業モデルは変容しつつあるのを感じる。上記はプログラマーの賃金水準なので、上級のSEレベルでは、中国側の賃金はさらに高水準になっていると思われる。

 しかし、中国駐在の日本ソフト企業の社員の報告を聞くと、まだ、大学の教授や学生が作る大学企業では、コスト安く委託できる機会がある、という回答が多い。しかし、本当にそうだろうか。現地の駐在員にとってみれば、中国の賃金水準が上がって中国への委託開発の意味が薄れてくれば、自分のポジションの危機にもなる。なるべく、自分の地位を危うくするようなトレンドには鈍感になろうとする傾向が出ないだろうか。もし、そういう反応があるとすれば、日本企業の中国駐在員からの報告は時機を逸したものになる懸念もある。変化に機動的に対応できない可能性もある。

 台湾の猛烈なバイタリティ、中国の賃金上昇など、激しく変わる日中台の関係を見直しながら機動的に国際戦略を展開してゆく柔軟性が必要な時期に差し掛かったようである。

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